「夫婦の絆」第10話の感想

 

投稿者:まいこさん

  

三人同棲の破綻の危機に際して、三人三様の狂気がますます露わになった第10話。

 

 

異母姉妹である沙耶を「人生を賭けて」守り、一郎から「家政婦さん」の扱いを受けても、三人同棲を維持しようとする蜜子は、父親にも母親にも、なつくことができず、幼少期に愛を知り得なかったことから、求められるまま心身を捧げてしまっている。

 

 

生きる実感を得るためには死に近づくことも厭わない、殉教者のような危険水域に嵌っている様が、「家政婦でもいいよ!!」という瞳孔の開き切った目の煌めきでありありと伝わります。

 

 

同じく母親からの愛を知り得なかった一郎は、その薄幸の生い立ちを悪気なく錦の御旗として振りかざし、求めていたはずの愛を捧げてくれる蜜子の前で、引っくり返って駄々をこねる幼児のように沙耶への欲望を吐露して止まない。

 

 

「正直」は時に何という残酷さを発揮するのでしょうか。 

 

 

年端もいかぬ幼女のうちから過酷な責め苦を負い続けてきた沙耶は、ユタを母親に持つことが明かされました。これまで彼女が示してきた不可思議は、母親から受け継いだ気質に由来しているとしたら納得で、さらに「思念が凝固するまでの強い動機がなければ、亡霊は現世に留まることはできない」という、科学者が顕微鏡で見る対象をシャーレに培養し固定するごとくの言葉には、冷徹な論理性も感じられます。

 

  

「人生に倫理観を持ち込む者は弱者よ!人生は欲望を貫く覚悟だけ!それだけよ!」

 

第6話の蜜子の叫びが表すのは、「自分の欲望にあまりにも正直」だった父親の気質であり、こちらも二人の娘に引き継がれていたとしたら、手弱女の沙耶が「欲望を貫く」には、「思念」までも自在に操る必要があるということなのでは。

 

 

「その男は、あなたの鬼畜オヤジにそっくりよ!」父親から逃れた沙耶が、一郎に身を任せる理由が、いま一つ分からなかったのですが、彼女が一郎と父親を同一視しているということは、おぞましい行為のときに生じる可能性のある離人症、(「魅せられて」の歌詞「好きな男の腕の中でも 違う男の夢を見る」という言葉も想起)自分の意思で幽体離脱のごとくの体験をする度に、現身のまま「思念が凝固」する実験を繰り返しているのかもしれません。

 

 

先生の作品でも取り上げられた密教の「理趣経」を紐解くような、地獄の淵を覗き込むような、常世と現世を媒介する理(ことわり)が展開し、愛にとっての最後通牒が突き付けられた今回も、頁を繰る手が止まりませんでした。

 

 

一郎の蜜子への応え如何では、沙耶が凄まじいメタモルフォーゼを遂げるのかも…

 

 

次回以降も心待ちにしております。

 

 

 

 

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コメント: 15
  • #15

    まいこ (火曜日, 23 1月 2024 12:55)

    時間が経って、また書きたいことが溢れてきましたので追記いたします。
    「家政婦でもいいよ!!」という蜜子の瞳孔の開き切った表情は、カラヴァッジョの「法悦のマグダラのマリア」を思わせます。言葉ひとつで堕落したとみなされていた女を聖女に押し上げた歓喜は、スーパースターに傾倒する疑似恋愛と同義。
    恋愛感情が高まり切ったときは、あばたもえくぼ、蜜子が一郎の爪さえも愛でていたのは、相手の全てを愛しいものとして変換する脳内麻薬が放出されている状態。ただ言葉と仕草のみで蜜子を舞い上がらせた一郎の「正直」は、「愛は惜しみなく奪うもの」という意味での残酷、愛の渦中にいる蜜子にとっては、法悦以外の何ものでもないのでしょう。
    沙耶が躊躇いつつも一郎に応じてしまうのは、自分のために殺人まで犯した蜜子の想い人への返礼であり、「カラダ」にとっての法悦が「思念を凝固」させ「欲望を貫く」力を与えてくれるからでしょうか。
    二人の女性を、ここまで変えてしまう一郎の破壊力、「朝は蜜子、夜は沙耶だ!」は、けだし至言で、もしかしたら、朝を司る蜜子は天照、夜の沙耶は月読、そして悪気なく自らも周囲も破壊するサークルクラッシャー・一郎はスサノオということになるのかも。そして破壊は、すべての創造の源。まさしく一郎は、不世出の作家である小林先生を顕わしているのですね。
    第1話からの読み返しも、今後の展開も、さらに楽しみになってきました。こんなにも味わい深い日々を与えてくださって、ありがとうございます。

  • #14

    ひとかけら (月曜日, 22 1月 2024 21:25)

    蜜子は自分の存在を認めてくれる一郎を愛し一郎は自分の腹を満たしてくれる蜜子を必要としてる。共依存のような関係性だなと思っていましたが変化しつつありますね。
    一郎は蜜子の愛に気付き始めてる。
    実の母親が命を賭けて守った沙耶は果たして蜜子を守るために命を賭けられるのか今後が楽しみです。
    願わくば蜜子と一郎が対等の関係になり共に生きられたら素晴らしいと思います。今回蜜子の言葉が一郎を家に留まらせたのはお互いの関係が対等になるキッカケになると感じます。

  • #13

    おおみや (日曜日, 21 1月 2024 18:18)

    沙耶の「べき」が大きく響いてきた回でもありました。
    私の周囲では…「べき」を忘れ去って「日々はやり過ごす対象」として振舞い年齢を重ね続ける男性を沢山見ております。行動を起こしてみようとする価値を感じておらず、よって動機も存在しません。ところがスマホは本人すらも気づかぬ隙間をも埋めてくれている様です。ただし…その満たされぬ日々からと思われる滲み出る攻撃性となって表出をしている個性もあります。

    日常⇔本作にて「べき」の世界から遥かに遠い2つの領域を見られている気がします。「べき」よりも「生き抜く能力」を磨き上げられた蜜子に愛なるものを付加した上で生きていてほしいと願う沙耶の今後の描かれ方も楽しみです。

  • #12

    リカオン (土曜日, 20 1月 2024 19:22)

    「男は誰もが私を怖がる。誰もが私を直視できない。いっちゃんだけよ!私の顔を見て笑顔になり、手料理を本気でほめてくれるのは!」
    この蜜子の叫びをどうか救って欲しい。沙耶から見れば、一郎は蜜子を家政婦にしか見ていないと喝破しているが、蜜子は構わない。男達に無視され続けたからだ。

    だんだん本当の愛が何なのか分からなくなって来た。沙耶だって言い寄って来る男性は多いが、彼女の内面が好きなのだろうか?単なる体目当てなのではないのか。

    私の周りの女性で蜜子の顔とよく似た女性がいたが、彼女はとてもしっかりしていて明るく賢い人だった。卒業して彼女はすぐに結婚した。
    美人で結婚していない人は山ほどいる。

    夫婦の絆とは何なのか。どうか蜜子を救って愛を与えて欲しい。

  • #11

    枯れ尾花 (金曜日, 19 1月 2024 21:56)

    やっと今日、入手出来ました。漫画によって多くの事を学んできたと自負している私ですが、この「夫婦の絆」は正直に言うとテーマが解りづらくあまり物語に入り込めずにいたのですが、回を重ねるごとに次の展開が気になっている自分に気が付き「楽しみが一つ増えたな♪」と喜んでいます。
    さて、物語の流れとは関係ない感想ですが、「人生に倫理観を持ち込む者は弱者よ、人生は欲望を貫く覚悟だけ!それだけよ!」この台詞には凄く感銘を受けました。そしてこの時、ふと浮かんだのが現ロシア大統領プーチンの顔でした。彼のことは嫌いですが、彼は欲望を貫く覚悟を持つ者ではないのか?そうであるなら彼の欲望を打ち砕くには何をもって対抗しなければならないのか?単純に考えれば彼以上の欲望を持たないと結局はウクライナは負けてしまうのではないかと…。
    様々な欲望は人類を進歩させてきたと思っていますが、人類を破滅に導く危険も大いに孕んでいると。

  • #10

    ひとかけら (木曜日, 18 1月 2024 04:55)

    殺人とは断じて許されるものではないと一郎は判断するのか、それとも倫理観なく二人の女性を独占するのか気になります。
    ケダモノばかりの男か「公」の部分はあるのか。

  • #9

    タロー.G (木曜日, 18 1月 2024 04:55)

    簡単に感想を。
    一郎、殺人があった後にステーキ頬張り、沙耶を抱こうとして股間ギンギン…。欲望に従順だけど、これくらい鈍感な方が今の狂った時代には生きられるかも。
    沙耶の母親の亡霊がリアルで怖かった。それにしても、自分の娘をあの鬼畜夫婦に託して自分は殺される事を選ぶとは、なんだか手塚治虫の「奇子」を思い出してしまう。
    鼻栓の刑事、もしこんなのがいたら、山口某と伊藤詩織さんの強姦事件、すぐに解決するだろうなあ。
    蜜子の「家政婦でもいいから!」にだんだん愛おしさを覚えてしまいました。沙耶、どうするのか?

  • #8

    kotyako (水曜日, 17 1月 2024 23:08)

    「夫婦の絆」の感想をいつもはライジングのコメント欄に書いているのですが、
    今回初めてこちらに送らせていただきます。
    湯豆腐に始まり、同じ構図でどんどんボリュームアップしている朝食風景がクセになるほど面白くて美味しそう。自分の浅慮で血みどろの惨劇を起こし、死人も出ているのに無邪気にステーキにかぶりつくいっちゃん。怒りの沙耶がカッコいい。今回は沙耶のカッコ良さ全開の話でした。沙耶の言っていることは正しい。でも蜜子の一郎への想いには敵わない。
    いっちゃんの子ども返りのような邪気のない可愛い表情と動き、セリフと下半身のギャップが突き抜けすぎて笑ってしまいます。
    沙耶はやっぱり蜜子が自分を守るために殺人を重ねてしまうことに相当危機感を抱いています。当然です。沙耶の母親が命懸けで蜜子の両親に沙耶を託したのは姉妹を繋いだけれど、本当にあの父親は鬼畜です。
    一郎が記憶を失くし、蜜子と夫婦になる展開のために沙耶は大きな犠牲を払ってしまったのではと沙耶が可哀想で、愛しくなっています。
    次回が待ち遠しいです。
    カレーせんべいさんの「夫婦の絆」の初見読み、セリフを全部音読してくださるのを毎回楽しんでいます。

  • #7

    和ナビィ (水曜日, 17 1月 2024 21:20)

    今回のお話 少し泣きながら読みました
    沙耶の母親の 娘を思う愛に 
    恨みも怨念も執念も我が身さえも・・「そんなもの」と言えるほどすべて超越して在る愛

    ユタの血脈は脈々と沙耶に受け継がれていることでしょう
    そういう者が持っている愛の凄まじさ その深さ

    度外れた正直者の一郎 
    配慮も常識も そしておためごかしも偽善も 一切無い
    だから蜜子の料理への感動と賞賛もその通り
    一郎は蜜子の表現(料理)への至宝の反応者 
    蜜子の愛は独占欲も嫉妬も軽々と超越している 痛いほどに伝わってきます

    母親の血を引く沙耶の愛は・・どういう道を選ぶのでしょうか

  • #6

    リカオン (水曜日, 17 1月 2024 20:15)

    kindleでFLASHを入手!
    感想を書きます。
    ↓↓

    第10話は3人同棲のほころびが露わとなり、三者三様の言い分をぶつけ合う回となった。

    沙耶は木花咲耶姫の暗喩。美しく華やかだが短命だ。
    蜜子は磐長姫の暗喩。醜女だが生命力あふれ手堅い人生とスキルを持つ。
    一郎は瓊瓊杵尊の暗喩。男の性(さが)に正直だ。

    一郎は本能そのまま隠し立てなく男性の本音をさらしている。幼児退行してまでも、美人とあれば言い寄って欲しがる。
    自分が原因となって1人死んでいようが、後先考えない。それすら忘れて美食に舌鼓。刹那的だ。自分を慕う女性を傷つけていると言う事にも配慮せず、美しい女性へのアプローチを止めない。このあたりは動物と変わらない‥。

    この話を読みながら、私の周りの結婚願望を持ちながら、結婚できない女性達の事を時々思い出してしまう。
    彼女たちは決して醜女ではない、そこそこ美しいので沙耶的であり、自活しキャリアもあるので蜜子的だ。二人の要素を持つのだ。なのに愛を得られない。そんな女性達が一人や二人ではない、大勢いるので不思議に思う。だからこそ、この状況の打開策が欲しい。

    蜜子の健気さが少しずつ一郎の気持ちを動かしているようだ。
    ・ゴー宣1の第30章「幻想美人論」
    ・歌謡曲を通して日本を語る第三回〜健気な女は死語か
    で先生が指摘されている通り、醜女や恋人のいない女性については女の健気さに打開点を見ておられるのだろうか。

    沙耶はユタの血脈で、特殊な能力が亡霊となって現世に現れる事ができるという事がこの回で判明した。現世に留まるための沙耶の強い動機とはなんだろう。それは今後明らかにされるだろうが、蜜子を守るためなのか。そして蜜子が愛を知れば成仏できるのだろうか。

    この話はピカレスクサスペンスの体裁をしているが、愛を得られない沢山の女性達の福音になりはしないだろうかと、むしゃぶるように読んでいる自分がいる。

    次回も楽しみにしております。

  • #5

    おおみや (水曜日, 17 1月 2024 19:10)

    9頁と最終頁の それとも が大きく期待を持たせてくれる回でした。古い日本家屋の夜の暗さと3人の部屋でのドライでシンプルな空間も対比的に届いてきた気がしていました。「貸しは貸しのままに」は戦略としても使い様があり、鼻栓刑事の味わっている詰めの愉悦との絡み合い…直接対決は何時?いや、無い?どういう形で届くのか、2月13日も待ち遠しいです。

  • #4

    あしたのジョージ (水曜日, 17 1月 2024 12:30)

    沙耶と蜜子のいいところを独り占めの都合のいい男の代表のような一郎。
    いくら不幸な生い立ちとは言え、身勝手だと思いますが、本音を言えば羨ましいです。
    蜜子は、自分の作った料理を美味しく食べてくれる一郎に一途な様子で、恋は盲目状態です。
    沙耶は自分を犠牲にして手を汚し守ってくれている蜜子に対して申し訳ない気持ちになっているみたいですが、蜜子の一郎への愛を何とかしてやりたい気持ちから、今後どういった行動をとるのか気になります。
    どんどん話が濃くなる一方で、毎回楽しみです。

  • #3

    やん (水曜日, 17 1月 2024 08:35)

    沙耶の実母が床下に埋まっているのを、養母が知っていたというのがしっくりきていなかったのですが、今週号でその謎が解消されました。
    沙耶が怨霊になったのも血筋が要因というのもわかり、物語はクライマックスに迫ってきた感じですね。
    次号が楽しみです!

  • #2

    叶丸 (水曜日, 17 1月 2024 00:07)

    亡霊になった沙耶ならば、刑事に自分の記憶を見せる事も出来そうだと思いました。
    兄の鬼畜のような所業を知った時、彼は何を思うのか…?

  • #1

    リカオン (水曜日, 17 1月 2024 00:07)

    しょえ〜。まだFLASHを入手できておりましぇ〜ん。
    kindleで明後日あたり入手予定です。
    第10話、早く読みたいな〜。
    (ノД`)